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東京家庭裁判所 昭和39年(家イ)3320号 審判 1965年4月19日

国籍 中華民国 住所 東京都

申立人 鐘丁美(仮名)

国籍 中華民国 住所 東京都

相手方 金善福(仮名)

国籍 中華民国 住所 申立人に同じ

昭三九(家イ)三三二〇号相手方 金良正(仮名)

国籍 中華民国 住所 申立人に同じ

金良正特別代理人兼(家イ)一七八三号相手方 金美令(仮名)

主文

相手方金良正並びに相手方金美令と相手方金善福との間にはそれぞれ親子関係の存在しないことを確認する。

理由

本件申立の原因事実の要旨は次のとおりである。

申立人は中華民国人であるが、昭和一五年ごろ申立外中華民国人李斗礼と事実上の婚姻をなし、当時種々の事情からまだ婚姻届出ができなかつたのであるが、昭和一七年一月二七日にはその間の子である相手方金美令をもうけた。しかし、昭和二〇年五月ごろ前記李斗礼は行方不明となり、その所在を探しても不明であつた。それで、申立人は、昭和二二年一月相手方金善福と婚姻をなしその届出も了したが、右届出をなす際、誤つて金美令を相手方金善福との間の子として届出たのである。その後、相手方金善福とは性格が合わないため昭和二三年一二月ごろ別居をなし、昭和二六年からは全く事実上の離婚状態で相互に何の交渉もなく、昭和三三年には正式に協議離婚届出をなした。ところで、昭和二四年一月に前記李斗礼が申立人方に帰宅したので、再び事実上の夫婦生活を営み、昭和二九年三月二二日その間の子である相手方金良正をもうけたが、申立人と相手方金善福との間の協議離婚届出が遅れたため、同児は相手方金善福との間の子として取り扱われるに至つた。しかし、相手方金良正並びに相手方金美令と相手方金善福との間には親子関係が存在しないのであり、申立人は昭和三八年一一月一五日前記李斗礼との婚姻届出をなしたことでもあるので、本件申立に及んだというのである。

以上の事実は、当事者間に争いがなく、かつ、昭和三九年(家イ)第三三二〇号事件記録に添附された中華民国五四年三月一二日付中華民国駐日大使館員発行の書面(日使領証(五四)字第一八五一号・第一八五二号)と当庁調査官伏見リエの調査報告書、並びに申立人本人、相手方金善福本人、相手方良正特別代理人兼相手方金美令本人の各尋問の結果その他本件両記録一切を総合すれば、これを認めることができる。

ところで本件は日本に住所がある中華民国人間の嫡出親子関係に関するからわが国に裁判権があり、その準拠法は法例第一七条により中華民国民法によるべきところ、同法には直接の規定はないが子が父に対し、自己の父であることの推定を覆すことを許さない趣旨の規定はないし、上記認定の事実により子である相手方金良正と同金美令とは出生当時の母の夫である相手方金善福との間に親子関係即ち父子関係のないことが明白であるから、この場合は條理上同法の許容するところと認めるのが相当である。そして以上の身分関係の訂正をなし真実の身分関係を明らかにすることは、法律的にも身分関係に重大な影響のあることであるから確認の利益がある。

よつて本件申立を正当と認め主文の通りに審判する。

(家事審判官 吉村弘義)

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